明日発売のDTMマガジン2014年3月号で、毎年恒例の無料ソフトカタログ(今年は120本!)を担当させて頂いた。
このシリーズは2005年頃から担当しているので(以前は年2回だったり、シェアウェアもあるなど多少変化している)、おそらくこれまで数千本分の紹介文を書いていると思う。読者の皆さんの関心も高いようで、フリー・シェアウェアがいかに音楽用ソフトの中で大きな存在となっているかをうかがい知る事ができる。
この特集の作業は、まずフリーソフトのピックアップから始まる。1年分(今回は2013年)のリリース情報(数千件)を全部確認し、その中から該当するものを抽出。種類や各種データのまとめ、スクリーン撮りなどを行った上で、やっとキャッチフレーズと紹介文を書けるというけっこうな重労働だ。
しかし、フリーウェアに限って言えば、ここ何年かで世界的に「勢い」が落ちており、新規のリリースがかなり減ってきている。理由は色々あるだろうが、おそらく大きいのは下の3つ。
●スマホ・タブレットへの流出
他のジャンルのアプリケーションと同じく、「無料でも使ってもらいたい」という欲求を満たすためなら、今ならモバイルアプリに流れるのが自然な姿だろう。
●ツールの非対応
特にWindows用のフリープラグインは「SynthEdit」など、プログラミング知識がなくともモジュラー的アプローチで開発ができるツールに支えられていた。しかしこうしたツールは、現在主流になっている64bit版のプラグイン作成にまだ完全対応していない(逆に、環境が整った後が少し楽しみでもある)。
●ビジネス化の難しさ
無料のオファーから見込み客にリーチしてビジネスにするのは基本的なセオリーだが、あまりのプラグイン飽和状態にそれも難しい状況がある。ビジネス志向が強い所は、作成が楽なKONTAKT向けサンプル素材の販売にシフトする例も多い。
このように、一時はハードウェアの電子楽器やメーカー製ソフトを駆逐してしまうのでは?とさえ思えたフリーソフト界だが、そろそろ大きな転換点に来ている模様だ。
そんな中、リサーチ中にとても興味深い事例を見つけた。これまで、フリー・シェアウエアとしてソフトの音源やエフェクトのプラグインを作っていた開発元が、なんとユーロラックのモジュールをリリースすていたのだ。
その開発元は「Audio Damage」。確か2007〜8年位には既に存在していたはずなので、結構長く色々なプラグインをリリースしているベンダーだ。
現在リリースしているのは以下の4つ。
※写真はAudio Damage Webサイトより
ディレイモジュールの「DUB JR」
サウンドをカオティックに破壊できる「GRAINSHIFT」
レート落とし系の「ERROR BOX」
ピッチシフト系の「FREQSHIFT」
公式のYoutubeチャンネルもあるので、サウンドはこちらで聴いて頂きたい。
http://www.youtube.com/user/AudioDamage001
さすがソフトベンダーだけあって、デジタル処理でしか得られない効果を上手く活かしたモジュールが揃っている(そして「Audio Damage」という名前ともよく合っている)。これからの展開も実に楽しみだ。
大手のメーカーでは「ヴィンテージシンセのソフト化」がお家芸のArturiaが、2012年に自社開発の純アナログハードシンセ「MiniBrute」を発売するという一種の「事件」があったが、フリー・シェアウェアを作っているベンダー達の間にもそうした流れが来るのでは?と予感させられる例の一つと言える。
00年代には、例えばKORGが自らMS-20やPolysixなど自社の過去製品を「ソフト化」するなど、全てがソフトに流れていくのがトレンドというか、時代の必然だった。
そして現在。もちろんソフトも進化を続けてはいるが、ソフトシンセは正直ビジネスとしては結構厳しい局面に来ている。何せ、Native Instrumentsの全部入りKOMPLETE 9 ULTIMATEが10万円程度で買えてしまうご時世だ。開発コストをペイできるソフトは、かなり少数派だろう。
ソフトは必要不可欠の道具だが、「まだソフトには難しいサウンド」「ユーザーの所有欲とダイレクトな使い勝手」「作り手側の付加価値の乗せやすさ」という魅力から、ハード制作に乗り出すベンダーが増えるのは全く不思議ではない。「電子楽器メーカーがユーロラックに参入すべきこれだけの理由」に書いたような理由で、参入するならユーロラックモジュールという所も多いだろう。
もしかしたら「Native Instrumentsからモジュールが!」なんて事もありえない未来ではないかもしれない。