この写真の物体、何だかおわかりだろうか?実はこれ、スピーカーなのだ。

Jupity301

これははBauXar「Jupity301」という製品で、熱烈なファンの多い「タイムドメイン」という方式を用いたスピーカーだ。タイムドメイン方式については様々な意見が存在するが、出音の良さと納得できるセッティング、そして数々のメリットから、仕事場のメインモニターに採用することにした(それまで約半年ほど、エージングや試行錯誤を重ねての結論)。

今までは10年以上、YAMAHAの初代MSP10と

Evernote Camera Roll 20130612 162359

 

重量級のスピーカースタンドを使用していた。ある種「王道を地で行く」組み合わせではあるが、仕事場のサイズに対して大きすぎるのでリスニングポイントがシビアで、しかも解像感も決して高くはない(後のMSP10 STUDIOは改良されている)など、慣れてはいたものの様々な不満にも悩まされていた。

そこで、DTMやスモールスタジオ向けの定番とされている製品を色々検討してみたのだが、結果として選んだのはそうした用途でそれ程使用されていないJupity301だった(もっとも、公式サイトの写真はYAMAHA 02Rと一緒に写っていたりするので、知らない所で結構使われている現場もあるのかもしれない)。
私がJupity301をメインモニターに選んだ理由をいくつか書いておこう。

1.サウンドのナチュラルさと解像感

タイムドメイン方式のスピーカーはこれらの要素に定評があるが、Jupity301もかなり優秀な性質を持っている。

生録の素材だと、マイクの機種やセッティングの違いがかなり鮮明に感じられるのだ。一番わかりやすいのはライドシンバルの音で、録音物では「チーン」とした細い音になってしまいがちな所が、ちゃんと生で聴いたような奥行きが感じられるのだ。

また、タイムドメインスピーカーは一般的には「生音の原音再生」という側面で語られることが多いが、例えばシンセのオシレータやフィルターなどの質感も、機種やセッティングごとの違いがとてもわかりやすい。チップチューン系のビット数の粗さも鮮明に感じられて面白い。ネット上の評価では、タイムドメインは電子音系の音楽には向かないと言っている方も多いが、電子音の微妙な質感に快楽を覚える素晴らしき変態諸氏にはタマラナイ代物であろう。

2.リスニングポイントの寛容さ

一般にスピーカーには最適な「リスニングポイント」があり、そこを離れるほど聴こえ方が大きく変化する。タイムドメインのスピーカーはリスニング位置における音の変化が少ないことに定評があり、確かにJupity301も部屋のどの位置で聴いてもかなり安定したバランスを保ってくれる。モジュラーシンセ等を用いた作業を行なっていると、部屋のあちこちを移動しながら音を作るので、この声質は非常にありがたい。

3.低音量でもバランスが崩れにくい

タイムドメインのスピーカーは、リスニング位置だけでなく、音量を小さくしてもバランスが崩れにくい。特に2wayのスピーカーだとある程度の音量を出さないと適切なバランスで鳴らしにくく、仕事場は夜でもある程度の音量は出せるものの、耳の方も相当に疲弊してしまう。音の作業を長時間行なっていると、体調により音量を抑えられるのも非常に嬉しく感じる。

4.セッティングがコンパクトに収まる

上に写真を載せた巨大スタンドは、確かにスピーカーの音をかなり締まった感じにしてくれるスグレモノなのだが、決して広くは無い仕事場のレイアウトをさらに限定してしまい、リスニングポイントもさらに狭く…という悪循環に陥りやすい。

これはある意味一番すごい事なのだが、Jupity301は机に直置きというセッティングでもかなりバランス良く鳴ってくれる。さすがに低域の多いソースでは机の振動が気になったので

348136e598e717a8c4c64e14ad99999a

 

オーディオテクニカのインシュレータAT6099を下に敷くことで解消した。

その結果

Jupity301

 

こんなセッティングで、MSP10+巨大スタンドを使っている時以上の満足感あるモニタ環境が実現した!通常このサイズで収まるスピーカーを使うと音像自体が小じんまりしてしまうが、Jupity301はかなりゆったりした音像が得られるので、かつての定番テンモニ(YAMAHA NS-10M)程度の大きさのスピーカーを使っているのとそれほど変わらない感覚で作業できる。

さて、このようにかなり優れたJupity301だが、もちろん万能ではない。一番大きな問題となったのがいわゆる「カマボコ型の特性」で、特に低域は音楽ジャンルによってはあと一歩の不足感がいなめない部分があった。そこで様々なソースをかけながらグラフィックイコライザで補正を行った結果、ダンスミュージック系もなかり満足のいく再生が行えるようになった。

タイムドメインファンの方にはEQでの補正に否定的な方も多いと思うが、微妙な味わいではなく「実用品」としての最適な調整を行うにはこれが一番効果的だった。またプライベートスタジオの場合、汎用性よりも「オーナーが気持ちよく作業が行える」事の方が重要なので、自分の好みに忠実になるのが一番だ。どちらにせよミックス結果は様々な機器で再生して校正するので、ミックス結果の汎用性はそうした部分で担保できる。

(2015/3/20修正:セッティングの詰めとさらなるエージング、さらに耳が慣れた結果、現在はグライコの使用をやめて卓のアウトからダイレクトにつないでいる)

補正しても当然サブウーハーのような低域が出るわけではないが(ダブ等のサブソニックベースは十分に“聴こえる”)、クラブ系の音楽などはむしろフロアでの鳴り方(低域の量ではなく、空間への広がり方)がイメージしやすいと感じた。むしろJupity301の感覚がつかめてくると、様々な再生環境でバランスよく鳴らせるミックスが行いやすくなりそうな印象だ。

DTMやスモールスタジオにおいては、モニター環境の構築が常に悩みのタネになる。万人向けではないかもしれないが、そうした悪条件下での環境構築において、タイムドメイン系のスピーカーはかなり魅力的な選択肢の一つなのではと考えている。