1994年の創刊から現在まで、コンピュータを使った音楽作りの入り口的な役割を担ってきた雑誌「DTMマガジン」が、ついに本日発売の2016年12月号で休刊となった(ネット上のコンテンツは引き続き継続)。

自分が初めてDTMマガジンに書かせて頂いたのは2005年9月号なので、23年の歴史のうち半分位に関わった形だ。当時、機材のマニュアルや単発の記事は時おり書いていたが、記名ライターとしての本格的なデビューは同誌ということになる。

いくつもの連載や特集、製品レビューのほか、無記名のものまで含めると本当に膨大な量の原稿執筆やデータ作成をさせて頂いた。記事連動の動画が見られるものもあるので、いくつか振り返ってみよう。

これは連載「フリーウェア探検隊」で紹介した国産の歌唱ソフト「AquesTone」のデモとして作ったもの。声の印象と、「パラメータ設定で全く違う声にできる」というシンセ的な特徴を活かして「憑依で声が変わる、イタコ系ボーカリスト“灰汁江”」というキャラを当ててみた。

灰汁江は、当時大ブレイクのきざしを見せていたVOCALOID・初音ミクの持つ突き抜けたポジティブ感のパロディでもあったのだが、諧謔的なネタを通してくれた編集部と、笑って許してくださった開発者の株式会社アクエスト社長・山崎氏にあらためて感謝したい。

VOCALOIDとは一味違った「自由度の大きいフリーの歌唱ソフト」を使った試みは、こんな方向につながって行った。

自分で収録した声素材をベースに歌声合成ができる「UTAU」の紹介記事から生まれた「かがみうさぎ」。UTAUはその後、作者の飴屋/菖蒲氏や多くのクリエイターの皆さんに参加していただいたイベント「UTAUフェスティバル」などにもつながった。

フリーウェア系連載は形を変えて長期間続いたが、短命ながらも個人的に印象深かったのはコレ。

当初はプラグインの開発講座を構想したものの、(地味な基礎知識の前置きが多くなるので)毎月わかりやすい「結果」を示すのが難しいという観点から、一歩手前の「改造」をテーマにした「フリーウェア改造計画」。内容はプログラミング寄りではなく、モジュラーシンセのパッチングに近い方法論なので、むしろ形を変えてやったら今のほうが面白い形になるかも?とも思っている。

その他、特集記事なども本当に色々な思い出があるが、また折に触れて個別に振り返ってみようと思う。

実は、DTMマガジンは、自分の「ルーツ」と深い関わりのある雑誌だ。私が「音楽を作る」行為に目覚めたのは、伝説のパソコン雑誌「マイコンBASICマガジン」(電波新聞社)に掲載されていたゲーム・ミュージックのプログラムを入力して遊んでいたのがきっかけ。こちらの藤本健さんの記事にもあるように、この2誌は同じ歴史の流れの中に位置するものだ。自分が大きく影響された雑誌の流れに、後年大きく関わることができた事には、感慨と不思議さの両方の感情が大きく湧いてくる。

そして近年は、音楽活動をしている方達から「学生の時から記事読んでました!」と言って頂ける事もしばしばあり、流れをつないで行く事を少しでもお手伝いできたかと思うと、心の奥に震えるものがある。

紙媒体の休刊は大変残念だが、人生に大きな道筋を作ってくれたDTMマガジンという雑誌について、読者の皆様、歴代の編集部の皆様、執筆陣の皆様、その他関係者の皆様に心から感謝したい。