Photo By rockheim

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1983年、デジタル音源(FM方式)のYAMAHA DX7が発売されたのだ。アナログでは8音ポリフォニックの機種が100万円オーバーの価格だったが、DX7は16音ポリフォニックで24万8,000円という強力な価格破壊もあって、爆発的なベストセラーになった。

これを機に音源のデジタル化が一気に加速し、1980年代後半にはPCM(サンプリング)方式の音源が浸透して、シンセの音は作るものから「プリセットを選ぶもの」になってしまった。

この、1980年代後半が「アナログシンセ真冬の時代」と言える。アナログ音源のリリースはほとんど無く、旧来のアナログ機種も時代遅れのシロモノと見られがちだった。

そんなアナログシンセが一気に再注目され出すのが1990年代前半のこと。きっかけはクラブを中心に盛り上がりの加速していた新世代のテクノシーンで、強烈な個性を放つトラックはアナログシンセが大きくフィーチャーされたものが多かった。

中でも一番加熱したのは、Rolandの「TB-303」という、シーケンサー内蔵のベース用シンセ。1982年の発売当初は不人気機種で終わったが、1980年代の終盤からアシッドハウスで独特のサウンドが珍重され、1990年代前半にドイツのHARDFLOORや日本の電気グルーヴといったテクノ系アーティストの使用で大ブームとなった。

TB-303はとっくに生産が終了し再発売も無かったため、中古に大幅なプレミア価格がつく事に。その流れに乗り、DoepferやNovationといった中小規模のシンセメーカーから、TB-303の代用を見越した、俗に「303クローン」と呼ばれるアナログシンセの新製品が登場し始めた。

長きに及んだ真冬の時代は過ぎ、再びアナログシンセの新製品が発売されるようになった。デジタルシンセでは再現が困難なサウンドと、音作りのしやすい構造が再評価されたのだ。303クローンを出したメーカーのうち、特にドイツのDoepferはこの頃からユーロラックサイズのモジュラーシンセをリリースしはじめ、後にアナログシンセ最重要メーカーの一つとなる。

その灯火が消えずに受け継がれたアナログシンセではあったが、アナログ復活の大きな流れにならず、旧来のアナログシンセ機種はますますプレミア度を上げて行った。そして、多くのユーザーは、アナログの利点を再現すべく設計されたデジタルツールを、実際の曲作りのツールとして使う事となる。

(第3回に続く)