去る4/2に発売となった拙書「21世紀のアナログシンセサイザー入門」。Amazonのランキングでも現時点の最高で部門2位となるなど多くの皆様に御覧頂いている模様で、感謝の念に堪えない。
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同書では、特に現代のアナログシンセにフォーカスしてその魅力や活用法をご紹介しているが、その中でも強調したいものの一つが、第1章で紹介している「アナログシンセはハイレゾ楽器」であるという概念だ。

昨今のオーディオ界隈で多用されるハイレゾというキーワード。一人ひとりが様々なイメージをお持ちと思うが、単純に「良い音」と表現するのは語弊があり、「情報量が多く元ソースのニュアンスを正確に出せる」という解釈がより適切だ。現在ハイレゾは生音系のジャンルで好まれる傾向が強いが、実はアナログシンセのサウンドは、生音以上にハイレゾの恩恵を受けられる部分が多い。

一般にハイレゾと冠されるフォーマットは、CD等ではカットされていた人間の可聴域以上の成分も収録可能となっており、それが可聴域内の聴こえ方にも影響するというのが定説だ。アナログシンセのサウンドには可聴域以上の成分がとにかく盛大に含まれており、可聴域を大幅に超える96KHz(イヌの可聴域よりさらに上!)までの音波を記録できるサンプリング周波数192KHzのWAVで録音しても、まだ天井を突き抜けて上まで伸びている。

「21世紀の〜」にも掲載した画像でご覧頂こう。どこまでも伸びているアナログシンセの成分に比べ、CDやサンプリング周波数44.1KHz程度のDAコンバータを持ったデジタルシンセのサウンドは、20数KHz付近で完全に成分がゼロになる。

Doepfer A-110VCOから出力したSAW(ノコギリ波)をサンプリング周波数192KHzで録音し、スペクトルをAdobe Auditionで表示。
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同じ条件で、44.1KHz動作のソフトシンセから出力された、ぱっと聴きは同じような音色の表示。
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書籍でも書いたが、これは単純に人間の感性にとっての「音が良い」「音が悪い」という印象にストレートにはつながらない。だが、ぱっと聴き同じような音でも、従来のデジタルフォーマットの領域では凄まじい量の情報が切り捨てられていたというのはお解り頂けるだろう。

そして実際、アナログシンセを中心に構築された楽曲は、ハイレゾ系とCD相当程度のフォーマットでかなり印象が変わる。特に、楽器単音よりも、複数のパートがからみあう事で作られる空間の印象が変わってくるのだ。これがMP3などの圧縮音源になると愕然とするほどの違いになってくる。

「21世紀のアナログシンセサイザー入門」では、「デジタルツールが一定以上の成熟を遂げた現代だからこそ、アナログシンセ本来の魅力をやっと最大限に活かせるようになった」という概念を通底させている。かつてのアナログシンセ全盛時代に主力だったアナログのテープは、それが魅力であるにしろ「録音すると絶対に音が変わる」メディアであり、ミュージシャンが生み出した音をここまで新鮮なままリスナーに届ける術は存在しなかったのだ。

21世紀のアナログシンセは懐古的な存在ではなく「現代にマッチしたツール」。それとハイレゾフォーマットの組み合わせは、新しい領域の作品を生み出す可能性を、それこそアナログシンセの可聴域外成分のように含んでいる(笑)。

どんどん新しい表現を生み出して行こう!

※追記
ちなみに「21世紀のアナログシンセサイザー入門」の付録ダウンロード素材には、192KHz・24bitのハイレゾフォーマットで収録された作例が入っているので、是非それらもご確認頂きたい。