現地時間2016年11月2日、米・サンディエゴで開催された「Adobe MAX」において発表されたAI(人工知能)フレームワーク「Adobe Sensei」が話題を呼んでいる。

Adobe Senseiに関する公式のリリースはこちら

現在はまだ、日本語に由来するネーミングが話題の中心だが、AI系の技術は今後のクリエイティブワークの姿を劇的に変える可能性を持っている。

現在、Adobe Senseiの技術が最もわかりやすい形で搭載されているのがPhotoshopだ。画像上のモノを簡単に消去・埋め合わせできる「コンテンツに応じる」、顔のパーツを自然に微調整できる「顔立ちを調整」、グラフィック中に使われているフォント名を認識できる「マッチフォント」などがある。

これらの機能に共通するのは、単純に数値化できず、人間の勘に頼っていたような作業を高度にフォローしている点だ。

膨大な画像をAIに機械学習させて構築されたデータを基にすると、多くの「判断」を伴う作業をコンピュータに任せることができる。ここが、AIが人類の夢であると同時に「脅威」とも受け取られる所以だ。

ドラえもんの道具に見るAI

さて、AIを用いたクリエイティブ作業の姿を示唆しているような漫画がある。「ドラえもん」の中でも屈指の人気エピソード「きこりの泉」(てんとう虫コミックス36巻収録)だ。

この話は、女神の質問に正直に答えると、泉に落とした物をきれいな新品にして返してくれる道具「きこりの泉」にジャイアンが落下し、代わりに誠実そうな美男子の「きれいなジャイアン」が…というもの。

きれいなジャイアンのビジュアルと、最後のコマで泉に引き込まれているきたない(ノーマル)ジャイアンのブラックさが相まって、抱腹絶倒の仕上がりになっている。きれいなジャイアンは、原作で3コマしか登場していないのにフィギュア化されるほどの人気だ。

さて、この「きこりの泉」という道具。おそらくAIでこのような処理が行われている。

1.泉に投下されたものが「何」であるかを、分子構造だけでなく「製品や個人」のレベルまで判定できる。

2.投下された物の、欠損、劣化している部分を判断できる。

3.欠損、劣化している部分の、本来あるべき形を予測して合成・補修する。

こうしてみると、先のPhotoshopで利用されているAdobe Sensei由来の技術とそっくりである。21世紀初頭の現在は画像の補正のみでも、22世紀になれば進化した3Dプリンタとの融合で「きこりの泉」が出来ても不思議ではない。きっと、ドラえもんの道具は4次元クラウドのデータベースと高度に連携しているのだろう。

「きれいなジャイアン」の生成過程では、体格などの基本的属性をキープしつつ

●整合性の悪い外観(顔)をより最適な形に修正。

●暴力的な性格を、より社会にマッチする誠実なものへと変換。

というプロセスが行われている。ビジュアルだけでなく、性格という文脈的な部分までしっかりサポートされているのが驚きだ。

さて、Adobe SenseiのようなAI・機械学習技術がクリエイティブワークの中に浸透すると…

●素材写真を選ぶと、きれいなジャイアン(似たビジュアルでより整ったもの)を勧めてくれる。

●広告を作ると、きれいなジャイアン(ターゲットに対してより好ましいもの)に直してくれる。

このような効用をもたらしてくれるはずだ。多くの利用者にとって、素晴らしく便利な発展と言えるだろう。

そうした時代において我々人間には「きたないジャイアンなりの良さ」を見出していく感性が求められそうだが…意外と余計なバイアスや感情の無いAIのほうが、きたないジャイアンの良さも的確に見いだせる、といったオチもありそうだ。

はてさて、未来はどうなる?我々は、なかなか刺激的で興味深い時代を歩むことになりそうだ。