2年近く前、YAMAHA MSP10から乗り換えて、タイムドメイン・スピーカーのBauXar Jupity301を音楽制作のモニターに使っている事を書いた。
jupity301
「Jupity301」をDTM用モニターに

本日は偶然に、何人かの方のFacebook投稿などでタイムドメインについての話題が出ていたので、続編的な内容を書いてみる事にした。

現在もメインモニターとして使用を継続しており、環境全体の調整を進めた結果、前回執筆時に微調整に使っていたグライコの使用をやめ、現在はモニター用に音源をまとめている卓から直に出すだけというシンプルな形態になっている。

ちなみにモニター用の卓は、YAMAHA MG10XU
を使用。以前ライブ等の持ち出し用に使っていた小型ミキサーが壊れたので、ALLEN&HEATH ZED-10とだいぶ迷ってこちらに決めたものだ。以前のMGシリーズより音の解像度が大幅に向上した印象があり、持ち出さない時はオーディオインターフェース等の音をモニター用にまとめるのに使う事にした。初代MGシリーズからかなり進化しているので、是非一度試聴されるのをおススメしたい。
MG10XU

タイムドメイン・スピーカーは、作られる音像にかなり奥行きを感じる特徴がある。ワンポイントのステレオ録音だと自然さが際立つし、マルチトラックで収録された素材は、ミックスが良ければ音楽としての一体感を感じたまま、個々の素材の質感も見えやすくて大変面白い。

その影響の一つとして、普段はそんなに気にならないレベルのMP3等の圧縮が、通常よりさらに不自然に聴こえる事がある。圧縮音源では、音同士が重なりあうことでマスキングされて聴こえにくい成分を間引くことでファイル容量を減らしている。そのため、よりクリアに聴こえる影響で、本来であれば隠れる部分が露呈して不自然さとなっているのでは?と推察している。

フルレンジであるタイムドメイン・スピーカーは低音が出ないと言われることがあるが、Jupity301はサブソニック的な領域もその存在を感じさせる程度に低音が出ている(数ヶ月以上のエージングは必要と思われる)。そしてクラブ系のキックなどで、フロアで「太い!」と感じるものはJupityでもかなり迫力を持って再生され、いたずらに低域を上げてモゴモゴしているだけのものと明確に聴き分けることができる(例えば、石野卓球氏のトラックなどを聴くと、単純に低域の量ではなくアタック部分や時間軸変化の影響でサウンドが太く聴こえているのがわかる)。

タイムドメインは「タイム」というだけあって、時間軸に沿った変化をかなり巧みに描写してくれる。例えば、コンプレッサーの設定や機種の違いなどがわかりやすい。そしてこれは、モジュラーを中心とするアナログシンセを使った時にも良く感じる。

アナログシンセのサウンドは、高・低域の周波数特性的な部分が注目される場合が多いが、私はエンベロープなど時間変化に伴うパラメータの効き方がデジタルシンセと違うと感じる場合が多い。音色の特徴をよく再現している実機シミュレーションもののソフトシンセでも、一番(良し悪しというより)違うと感じるのがこの部分だ。Jupity301でモニターするようになり、アナログシンセとVAシンセのキャラクターの違いを従来以上に感じるようになった。

タイムドメイン・スピーカーは「生音の原音を忠実に再生」という観点で語られるケースが多いが、私はシンセ中心のクリエイターにも大変良い選択肢だと思っている。自宅スタジオなどの狭い空間はもちろん、大型のスタジオにもラージモニターと併せて導入すると、小さいスピーカーをニアフィールドとして置くよりも様々な観点から音を検証できると思う。

富士通テンのECLIPSEシリーズは音楽制作界隈でも知名度が高いが、本家タイムドメイン社や、Jupity301を作っているボザール社などは楽器店系の販売チャネルが無いせいか、その魅力の割に存在感が薄い状態となっている。

機会があれば、録音したソースでなく、モジュラーシンセの「生音」を複数のタイムドメイン・スピーカーで試聴するような試みを是非行ってみたい。